トラウマティック銀幕 去年マリエンバードで
せきしろの「去年ルノアールで」という本を読んだ。
面白かった。せきしろが観察したのか妄想したのか、
おかしな客たちがいるわいるわ。ルノアールに行きたくなったぞ。
約束どおりに男は一年待った。また同じホテルへ戻って来た。
豪華で古風な、バロック調の陰気なホテルに。
男は言う。「去年、あなたにお会いしました」
でも、女は覚えがないと言う。
男は諦めない。執拗に去年あった事を女に話して聞かせる。
全く記憶のなかった女は次第に男の話が事実だったような気がしてくる。
男は言う。「わたしはあなたの部屋に行ったのです」
女は動揺する。いろいろな記憶の断片が現れては消える。
自分は夫を裏切ったのか?裏切られた夫は自分を撃ったのか?
男は言う。「あの日、あなたはわたしとここを発つはずだった」
でも、女は決心がつかなかった。一年待ってくれと言った。
そして男は再びこのホテルに来たのだ。
ホテル内の劇場で芝居が演じられるさなか、夜中の12時に出発だ。
女はまだ迷っている。観劇中の夫が途中で抜け出し、自分を止めてくれないか。
そして、12時の鐘が鳴る。
まずナレーションが何度も繰り返され、消えかかってはまた戻ってきたり。
バロック調のオルガンが不協和音を奏で、不安で不思議な世界へと誘う。
カメラはゆっくりと広くて豪華なホテル内を彷徨する。
ホテル内の劇場で演じられる舞台の役者は無表情でマネキンのよう。
観客であるホテルの滞在客も無表情。会話の途中で何度も不意に停止する。
出演者たちは先のストーリーがどうなるのか知らされてなかったらしい。
だから、特にデルフィーヌ・セイリグの曖昧な微笑、不安げな様子が素晴らしい。
衣装担当がココ・シャネル。昔のシャネルは今よりずっといいね。
今回トラウマになったのは、妻に裏切られた(のかもしれない?)夫。
なんかドラキュラっぽい。デヴィッド・バーンっぽい。益岡徹っぽい?