トラウマティック銀幕 髪結いの亭主
春だなあ。今日みたいに風もなく暖かくて花曇りの日っていいなあ。
なんだかちょっとモヤモヤするなあ。そんなモヤモヤにピッタリな映画を。
<髪結いの亭主>
ある海辺の街。十二歳の夏休み。母親の手編みの海水パンツは濡れるとチクチクする。
アントワーヌの初恋の相手は床屋のマダム・シェフェール。赤毛で豊満。
店のローションや石鹸の香りもいいが、彼女自身の強い体臭が好きだ。
シャンプーしてもらう時、彼女の豊かな胸が時おり顔に当たる。
そして、ある日の大事件。彼女のはだけたシャツから胸のふくらみが見える。
父に将来の夢を聞かれ、「女の床屋さんと結婚する」と言って、平手打ちをくらう。
自室に閉じこもると父が謝りに来るが、アントワーヌは将来の自分に思いを馳せる。
でも、マダムが鎮痛剤を飲み過ぎて、店で死んでいるのを見つけてしまう。
二十数年後、マチルドはオーナーのイジドールから腕を見込まれて店を譲られる。
そこへ中年になったアントワーヌが来店。予約なしだから30分後に来るよう言われる。
マチルドに一目ぼれのアントワーヌ。髪をカットしてもらいながら、「結婚して下さい」
会計の時に失礼を詫びて出るが、三週間とたたずに再び店に。髪は伸びていないのに。
先客がいてそっけないマチルドの態度に嫌われたと思っていると、会計の時に、
「もし、本気なら心が動かされました。あなたの妻になります」
二人は店でささやかな結婚式をあげ、それから十年間にわたり幸せな時をすごす。
ある夕立の日、いつものように官能的な愛を交わしたあと、マチルドは…。
「ひとつだけ約束して。愛するふりはやめて」幸せの絶頂が終わるのを恐れたマチルド。
子供の頃から求めていた理想の愛の形を手に入れ、永遠に続くと信じたアントワーヌ。
心がすれちがう男と女の悲劇だけど、これほどまでに濃密な愛はけっこう重たい。
「少し愛して、長く愛して」のほどほどを善しとしてしまう凡人にはとても無理。
ルコント作品ではお馴染みのジャン・ロシュフォールは相変わらず飄々としているのに、
突然、嬉々として踊り出す自己流のアラビアンダンスのはじけぶりがものすごくいい!
アンナ・ガリエナの演じるマチルドは美人で腕もいいから常連も多く、変な一見客も。
陰気さを変えようと豊かな顎ひげを剃り、やっぱり陰気だと言って帰ってゆく男。
いきなり店に駆け込んで来て、あとから来た妻に平手打ちされ、離婚されてしまう男。
髪を切るのを猛烈に嫌がる男の子を連れて来て、「やっぱり養子はだめね」とグチる女。
今回のトラウマはこわもての常連客。いつも子分(?)連れで、二人で議論を戦わせる。
その内容がチンプンカンプンで不条理というか。実存主義を論じるマフィア?