トラウマティック銀幕 永遠と一日
テオ・アンゲロブロス監督が交通事故で亡くなったのには大ショック。
得意の長回しに夢中になって、バイクが近づくのに気がつかなかったのでは?
そこで撮影が止まってしまった遺作は封切られるのかなあ?
<永遠と一日>
詩人のアレクサンドルは明日から入院する。冬の終わりまでの命だ。
家政婦のウラニアに世話になった礼を言い、犬を連れて車で娘の家に向かう。
途中、信号でとまっていると、少年たちが駆け寄って車の窓を拭く。
違法就労で警官に追われ、アレクサンドルはそのうちひとりを安全な場所まで乗せる。
娘のアパートメントに着き、亡き妻の遺品の手紙を託す。「明日から旅に出るんだ」
娘は手紙を読む。「近づきすぎるとあなたは驚く。考え事をしているあなたが怖い」
親戚が集まって娘の誕生を祝ってくれても、詩人はひとり隠れ家にこもって詩作。
いつもどこかに行ってしまう夫、孤独を募らせた妻の悲しみを初めて知る詩人。
娘婿は犬をあずかるのを断る。思い出深い生家も売りに出し、明日解体されるとも言う。
暗欝な心で自宅アパートに向かうが、途中で病気の痛みに耐えられずに薬局に寄る。
そこで、先ほど警官から助けてやった少年が男たちにトラックで連れ去られるのを目撃。
車であとをつけると、廃屋に裕福そうな男女が集まり、少年たちを選び出す。
人身売買。アレクサンドロスは金を払って、そのアルバニア移民の少年を助け出す。
祖母のいる故国に向かうバスに乗せても途中下車、タクシーに頼んでもだめ。
仕方なくアレクサンドル自身が車で送る。車中で少年に言葉を買った詩人の話をする。
母の故郷のギリシャの村を訪れた詩人は言葉を学ぶため、村人から言葉を買った。
ふたりが国境に到着すると、有刺鉄線には脱出に失敗した者たちの銃殺死体だらけ。
「祖母がいるって言ったのはウソ。攻撃で村は全滅。友だちが連れて逃げてくれた」
だが、その友だちは海で溺死。仲間と弔いをして少年はマルセイユに渡ることにする。
アレクサンドルは少年を抱きしめ、「船が出る夜まで、わたしと一緒にいてくれないか?」
死期の近いアレクサンドロスには明日がなかった。明日のことなど考えられなかった。
過去は何度も訪れた。古代都市が海から浮上するという伝説に夢中だった幼き頃、
いつもどこか悲しげな妻との思い出、研究対象だった詩人ソロモスなどなど。
だが、祖国でもギリシャでも命がけの毎日の移民少年との出会いによって変わる。
この少年がまた不可思議な魅力。非情で危険な目に会ってきているのに、
だれを恨むことなく、絶望することなく、シャカリキではなく淡々と前向き。
相手の心にズカズカ踏み込むことなく、奥の方までちゃんとわかっている賢明さ。
「明日の長さは永遠と一日よ」妻の言葉がアレクサンドルに蘇えったのも少年のおかげ。
最後にアレクサンドルと少年が別れを惜しんで巡回バスに乗るけど、乗客が変!
共産党の旗を持ったデモ帰りの若者、どうでもいいようなことで喧嘩する恋人たち、
バス車内をヴァイオリンやチェロでミニコンサート会場にする音大生たち、
言葉を買うという話の詩人ソロモスは次元を超えて?それとも詩人コスプレ?
今回のトラウマは車掌さん。マイクスタンド付きの席に座ってアナウンサーみたい。