トラウマティック銀幕 ヒトラーの贋札
ユダヤ人収容所で特殊な‘任務’がテーマの映画と言えば‘愛の嵐’かな?
この映画では特殊な‘任務’のユダヤ人たちは驚くほど待遇が良かった。
清潔でフカフカのベッドを触りながら涙する姿に、思わずこっちも涙。
<ヒトラーの贋札>
終戦時のモンテカルロ。ホテル・ドゥ・パリに泊まるソロヴィッチはカジノでボロ勝ち。
美人と部屋へ。服を脱ぐと腕の刺青の番号を女に見とがめられる。「強制収容所に?」
1936年ベルリン。サリー・ソロヴィッチが女と寝ていると警察に踏み込まれる。
贋造紙幣課の責任者ヘルツォークは腕のいい贋札づくりのサリーを尊敬しつつ逮捕。
1939年マウトハウゼン。画才を買われたサリーはナチの将校たちの肖像画を描く。
だが、5年後に突然の移送命令。劣悪な列車内でガス室送りかと半ば観念していたら、
親衛隊隊長となったヘルツォークが収容所で出迎える。「ザクセンハウゼンへようこそ」
到着したユダヤ人たちは古着と靴を提供される。みな特殊任務のため集められたのだ。
各種証明書や紙幣の大規模贋造する‘ベルンハルト作戦’のサリーは修正主任となる。
メンバーは他に美大生、写真家、印刷工、銀行家など、その道の専門家ばかり。
ヘルツォークは鼓舞する。「狙いは英国経済の崩壊だ。商店での買い物ではない」
贋札造りとは組めないと言う銀行家や、結核とわかれば即射殺される美大生など、
ヘルツォークから受けのいいサリーでもいろいろと悩みの種がつきない。
最大の難物は決起をうながすブルガーだ。ナチへの攻撃ビラを印刷して逮捕された。
だが、作戦はまずまず好調だ。イングランド銀行は彼らの贋札を真札と認める。
次はアメリカドルだ。あらたな印刷スタッフとしてブルガーの担当が決まる。
彼は妻がアウシュビッツでガス殺されたと知り、サリーにサボタージュを迫る。
だが、ヘルツォークは期限までに贋ドルができなければ、三人のスタッフを射殺する。
最後まで目が離せない、もう、夢中になって観てしまう最近では久々の快作。
特にどんな苦境でも自分らしさを失わないカール・マルコヴィクス演じるサリーに釘付け。
けっこうトホホな風貌なのに、その不思議な魅力に女も男も敵も味方も惹きつけられる。
そして、眼光すさまじいアウグスト・ディールのブルガーが最後に泣くともう…。
サリーはブルガーの信条を理解するが、職人として完璧な贋札を造りたい。
逮捕原因になった贋ドル造り失敗のリベンジ。それでナチを助けることになっても…。
それに仲間もなんとか守りたい。三人の射殺候補に入っているブルガーさえも。
すぐ隣で一般ユダヤ人たちがふつうに虐待されているのがわからないように、
特別待遇の作業班たちの建物の窓が開かず、クラッシック音楽が流されるのが怖い。
そもそもこの作戦にユダヤ人を使うのは、口封じができるからと自覚しているのも怖い。
怖い状況なんだけど、贋ポンド成功の祝賀会では詩の朗読で親衛隊員が鬼の目に涙。
今回のトラウマはまんまとだまされたダメダメなイングランド銀行。
先に贋ポンドを持ち込まれたチューリッヒ銀行は怪しんだのに〜。