トラウマティック銀幕 砂の女
中学三年の新学期。新しいクラスのなかにすごいのがいた。
ソルジェニーツィンの‘収容所群島’を速読していた。
すぐに友達になって、薦めてくれたのが安部公房のこれだった…。
<砂の女>
男が砂丘を歩きまわる。時おり昆虫を見つけては虫かごに入れている。
途中、奇妙なものを見つける。砂丘の崖下に家がポツンとある。
あまりにも不思議な様子に写真を撮ろうとしたら、漁師風の男に声をかけられる。
「調査ですか?」「県庁のひとじゃないんですよね」
昆虫採集の男は学校の教師で、砂丘に生息する昆虫研究のために休暇で来たと言う。
その時はそのまま別れたが、またしばらくして漁師風の男に声をかけられる。
「もう最終バスは行ってしまったよ。ここの部落で宿をとる口利きしてやるよ」
教師は快く承諾。他の部落の男たちとともに、先ほどの崖下の家に向かう。
部落の男たちが呼びかけると、女がひとり出てくる。「じゃ、頼んだよ」
教師は吊るされた縄梯子でその家へと降りる。家には電気はなくランプ1個のみ。
食事をする際、ちゃぶ台の上に傘を張る。「砂が降ってくるので」
女は砂が物を腐らせるので困ると言う。教師は笑う。「砂は乾燥しているはずだよ」
女の夫は去年の大風で砂に埋まって死んだと言う。教師は女の話を不審がる。
風呂はあさってまで我慢するよう言われる。「泊まるのは今晩だけだよ」
そこへ先ほどの部落の男たちが崖上から声をかける。「助っ人さんの分もあるよ」
助っ人?何のことかわからない教師をよそに、女は外に出て砂すくいを始める。
砂を箱に詰めると、崖上の男たちが吊りあげていく。女は朝まで作業を続ける。
翌朝、疲れて眠りこむ女を置いて、教師は家を出て行こうとするが縄梯子がない。
なんとか崖を登ろうとするが、足をかけるだけでどんどん砂が崩れてしまう。
男は女を無理やり起こす。「すみません。女ひとりでここの生活は無理なんです」
砂かきが間に合わないと家が埋まり、すると次は裏の家が埋まると女は言う。
「防砂林とかもっといい方法があるはずだ」「これが一番安上がりなんです」
騙されたと気づいた教師はなんとかその家から、その女から脱出を試みるが…。
これは怖い。岸田今日子の顔が怖いのもあるけど、実は岡田英次も変で怖い。
昆虫採集しながら、自分を理解しない恋人を想う。でも、悪いのは彼女らしい。
新発見で図鑑に名前を載せたい。虫好きで自分本位って‘コレクター’を思い出す。
アリジゴクのような女に捕まっても、悲壮感がないのは好きな虫に捕まったから?
都会や東京に嫉妬する女を鼻で笑う教師こそ、実はこの家の住人となるのにぴったり。
教師が下した最後の選択はまったく意外ではなかったけど、原作もそうだっけ?忘れた。
監督の勅使河原宏+音楽の武満徹+デザインの粟津潔など、極上芸術の結集作品。
今回のトラウマはやっぱり砂。いくらこれほどの作品でも絶対に出演拒否!
目や耳や口や鼻や髪や身体中が砂まみれ。ヘソとか尻の穴とか絶対にいやや〜!