トラウマティック銀幕 過去のない男
ずっと気になっていたけど、観そびれていたアキ・カウリスマキ監督の作品。
<過去のない男>
旅の途中の公園のベンチで男が居眠りしていると、暴漢たちが襲いかかり金を奪う。
血みどろになって街のトイレまでなんとかたどり着くものの、そこで倒れてしまう。
病院では医者と看護婦が浮かない顔だ。心肺停止状態の患者は身元不明のまま絶命。
ふたりがICUから出ていくと男がベッドから立ちあがる。鏡のなかの包帯姿を見つめる。
病院を出て川辺にやって来たが、そこでまた倒れる。そこに少年がふたり通りかかる。
少年たちと両親が住むコンテナハウスに男は運ばれ、介抱されると意識を取りもどす。
警察に通報しようと言う夫に妻はまずは事情を聴くことに。だが、男は記憶喪失らしい。
回復した男に夫は外出を誘う。「金曜日のディナーに行こう」救世軍の炊き出しだ。
そこで給仕する軍のイルマに男は魅かれる。食事を終えると夫はビールをおごると言う。
バーで夫は無茶なことを言う。「アルコールは頭のなかで固まった血をほぐすんだ」
外に出ると夫は棒で殴ろうとする。「同じところを殴ると記憶が戻ったのを映画で観た」
ある朝、男はその土地の警備員に見つかるが、ここの住民になるなら通報しないと言う。
そこで男は警備員からコンテナを借りる。家賃は週払いだが頭金を求められる。
「払わなければ、番犬に鼻を食わせるからな」「そのぶん影が小さくなっていい」
コンテナ暮らしを始めると、次第に仲間ができる。廃品などで部屋の調度品が揃う。
だが、家賃の頭金は払えない。警備員は出張するあいだ、番犬を見張りにつけられる。
犬の名前がハンニバルというから猛犬かと思いきや、雌犬で男にすっかりなつく。
男は職安に行くが、名前が思い出せないと言うとふざけるなと追い出される。
イルマから服をちゃんとしろと言われたのを思い出して、救世軍施設で服をもらう。
造船所で溶接工として採用されると、給料を受けとるため銀行口座が必要になる。
銀行では名前がないと口座が開設できないと言われるが、そこへ銃を持った男が…。
明らかに小津っぽいカメラワークがある。でも、作風は山中貞夫っぽいかな?
場末の名もなき人々が貧しいながらも懸命に生きている。しかも、ユーモアを忘れず。
北欧の弱い陽光のもとゆるやかにドラマ展開。そこにクスリと笑えるセリフの数々。
蟹江敬三似のマルック・ベルトラは記憶喪失だけど、生きる知恵はある男を飄々と快演、
カウリスマキ映画常連のカティ・オクティネンが内気で純情なイルマを固い表情で好演。
音楽の使いかたが独特でジャームッシュと似ていると思ったら友だちだって。類友だね。
今回のトラウマはその音楽がらみ。列車の食堂車で男に出された食事がなぜか寿司。
それもBGMがなぜかクレイジーケン・バンドの‘ハワイの夜’。イイネ!