トラウマティック銀幕 河内山宗俊
あ〜、山中貞雄の現存する3本の映画のこれが最後。でも、観ちゃうもんね〜。
歌舞伎でもこの宗俊が主人公のものがあるらしい。吉右衛門で見たいなあ。
タイトルは‘天衣粉上野初花’。くもにまごううえのはつはなって、読めるか〜!
<河内山宗俊>
金子市之丞は元は松江藩士だったが、いまややくざの用心棒。
この日もガマの油売りや占い師や将棋屋からアガリを集めて回る。
そんな中でただ一軒、目こぼしする。甘酒屋のお浪はまさに掃きだめの鶴だから。
お浪には廣太郎という弟がいるが、博打にうつつを抜かす遊び人だ。
甘酒屋に入った松江藩家老の北村大膳の小柄(こづか)を盗んで姿をくらます。
心配したお浪は賭場が開かれている河内山宗俊の女房お静の居酒屋へ。
宗俊が居酒屋二階の賭場に上がって見てみたが、それらしき若者は直次郎だけ。
お浪はあきらめて帰るが、実は直次郎が廣太郎。偽名だから宗俊にはわからない。
宗俊に気に入られた廣太郎は花魁遊びに誘われて、そこで幼なじみのおみつと出会う。
一方、小柄を盗んだ犯人が廣太郎だとつきとめた北村大膳はお浪を責め立てる。
店に偶然来た金子市之丞が、奉行所に届けたら切腹ものだろと大膳をなだめる。
将棋屋から廣太郎は宗俊の子分になったと聞いたお浪は、宗俊に弟を返すよう懇願。
そこへまた偶然立ち寄った金子が宗俊に斬りかかる。止めに入ったお浪が指をけが。
驚いて闘うのをやめ、どういうわけか意気投合する金子と宗俊。
廣太郎はおみつといた。身受けした親分を嫌っておみつは廣太郎と逃げるが絶望的。
心中するがおみつだけ死亡。親分は損した三百両をお浪に体を売って作れと迫る。
宗俊は上野の僧正に化けて松江藩に乗り込み、上様拝領の小柄の件で大膳をゆすり、
金子市之丞もやくざの親分を裏切って、お浪と廣太郎姉弟を命がけで助ける。
原節子15歳。無垢というか神々しいというか、ふんわりした笑顔と気品。
ワルのふたりが下心なしに彼女を守ろうとして、潔くおのが命を投げ出す。
悪知恵と度胸のある宗俊が河原崎長十郎、ダメ侍が中村翫右衛門で紙風船とは逆。
「今までムダ飯を食ってきたが、やっと人間になった気がするよ」と市之丞。
汚れちまったワルふたりをすっかり改心させてしまう、恐るべし〜原節子。
山中貞雄は詩情豊かに江戸の市井の人々を描く。それも少し離れた場所から。
もはや忘れられようとしている、遠くになってしまった世界への憧憬かもしれない。
今回のトラウマは北村大膳のふたりの家来。誰も買わない小柄を十両出して買い、
それを三十両で大膳に買わせる。要領が悪いのかいいのかわからん。