トラウマティック銀幕 その男ゾルバ
元祖カメレオン俳優はアンソニー・クイン!そもそもいったいどこの国のひと?
アラブ人、イタリア人、フランス人、インディアン、そしてギリシア人。
主役を食っちゃう脇役が主役になったら?相当すごい脇役が必要だな。
<その男ゾルバ>
イギリス人作家のバジルはアテネの港ででクレタ島行きの船に乗ろうとしている。
だが、悪天候のため出航できず待合室で待っていると、見知らぬ男に声をかけられる。
「あんたが気に入った。料理人でもなんでもやるから、俺を連れて行ってくれないか」
ボスをなぐって炭鉱をクビになったと言う。実はバジルは売れない作家をやめ、
ギリシャ人の父の遺した土地で亜炭(リグナイト)を採掘する計画だった。
ゾルバと名乗るその見知らぬ男のペースに乗せられたまま、ふたりはクレタ島へ向かう。
相続した土地は寒村にあり、村人たち総出で迎えられるなか、一軒だけのホテルへ。
女主人はマダム・ホーテンス。フランス人で連合艦隊の将校相手の元高級娼婦だ。
艦隊が去ってひとり残る。女好きのゾルバはいち早く彼女とねんごろになるが、
酔って昔の恋人の名前を囁かれて情熱が一気に冷める。トルコ人の名だったからだ。
村には若い未亡人がおり、村の男の欲望の対象となっているがだれも手を出せない。
そのなかに特に強い思いを抱くのはマブランドーニの一人息子のパブロだ。
ヤギを隠されて村人にいじめられる未亡人。雨に濡れる彼女に傘を貸すバジル。
ゾルバはたきつける。「あの女を手に入れられるのはあんただけなんだ」
地盤が崩れて採掘は困難に。ゾルバは名案を思いつき、資材を買いに街へ出る。
ゾルバの手紙。金は若い娼婦につぎ込んだが、資材は手に入るから心配するなとある。
手紙を読み聞かせてほしいとやってきたマダム・ホーテンスにバジルはウソをつく。
「帰ったら結婚しよう」と書いてあると。実はマダムは病気で先が長くないからだ。
ゾルバの不在中にバジルは未亡人と関係を持つ。失恋したパブロは海で入水自殺。
葬式の日、不穏な空気のなか教会に行くバジル。未亡人も教会に向かうが…。
冒頭で「クレタ島民は優しい」と旅行客は言うが、それが見事に裏切られる。
未亡人への仕打ちとか、未婚で死んだひとの財産が国に接収される前に山分けとか、
外部者には不条理きわまりないことだけど、あの村では掟だから仕方ない。
シチリアの話だけど、ウソをついた息子を殺す父親の話を思い出した。クオレだっけ?
ゾルバは複雑で味わい深い人間像を持つ。妻子も家も失ったが理由は言わない。
戦争でひとを殺しも犯しもした。たくさん傷を負ったが、背中にはひとつもないのが自慢。
善悪をつけたがる若いバジルに、そんなものは本の中のことだと切って捨てる。
長年トルコと戦いトルコ人は大嫌いだが、トルコ人の格言を引用したりもする。
そして、感情のコントロールがきかなくなったらダンス!ダンス!ダンス!
そんな主役を食う脇役は?マダム・ホーテンスのリラ・ケドロヴァが見事!
ノーブルでナイーブなバジルのアラン・ベイツもいいが、未亡人イレーネ・パパスの目!
今回のトラウマはゾルバから見事に金を巻き上げちゃう若い娼婦の手練手管。
コチョコチョコチョって言ってこそばす。聞きなおしてもやっぱり言ってる。世界共通語?