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トラウマティック銀幕 エル・スール

超寡作の監督と言えば、このビクトル・エリセ。10年に一本。
副業?裕福な家柄?生活の心配をしなくていいから傑作が出来るのね。

〈エル・スール〉

1957年の秋の早朝。母が父を呼ぶ声で起こされる。「アウグスティン!」
娘のエストレリャは今度こそ父は戻らないと確信する。
眠っている間に父が枕元に来て、愛用の振り子を残して行ったから。
父はその振り子で娘の誕生を予言したり、水源を探したりするのに使ったのだ。
エストレリャの幼いころの思い出は、引っ越しばかりしていたということ。
ようやく北の城壁に囲まれた町で父が医者として病院で働くことになり、
町のはずれの風見鶏のある‘カモメの家’に落ち着くこととなる。
そこで成長するにつれ、エストレリャは父が少しずつ謎になってくる。
休みの日に実験と言って屋根裏部屋にこもり、その間はだれもそこへ入れない。
内戦後の報復で教職を追われた母に宿題を手伝ってもらっていると、外は雪。
「南では雪は降らないのよ」「なぜ、わたしたちは南に行かないの?」
「パパが若いときに、お父様と喧嘩して飛び出してきちゃったから」
その南から訪問者が来る。エストレリャの初聖体拝受を祝うために、
祖母と父の乳母だったミラグロスエストレリャはミラグロスから聞かされる。
フランコが勝ってからはおじい様は大聖人でパパは悪魔」
「だからパパは監獄に行ったの?」「善悪が逆転したからね」
背教者の父が拝受式に来るか心配だったが、教会の奥の暗闇に立っている。
式のあとはホテルのレストランで祝賀会。演奏に合わせて嬉々として踊る父娘。
それから少しあと、エストレリャは父の心に別の女性がいることを知る。
父の机の引き出しのなかに女性の似顔絵。名前がイレーネ・リオスとある。
町の映画館で‘日蔭の花’という映画がやっていて、主演女優だとわかる。
そこの前に父のバイクがとまっている。かくれて待っていると父が出てくる。
父はカフェの窓際の席で手紙を書く。窓を叩くエストレリャ。秘密の共謀者。
でも、母は知る。夜中に夫婦で言い争う声。そして、父が一度目の家出をする。

内戦で肉親と争い、敗者となって故郷を追われ、恋人とは仲を引き裂かれ、
別の女性と結婚しても妻から理解されず、仕事は家族を養うためだけのもの…。
無条件に愛してくれるのは娘だけだ。娘のためになんとかがまんしよう。
でも、娘の思春期までは蜜月状態なんだけど、ボーイフレンドができると…。
15歳になった娘をめずらしくレストランのランチに誘うアウグスティン。
隣の部屋では結婚披露宴。拝受式でふたりが踊ったあの曲が演奏される。
父と娘の想い出の曲への思い入れの違いが悲しすぎる。娘の反応もわかるけど。
ああ、もっとあのとき父親と話をしていたら…、guracoloも後悔しきりだ。
父親役のオメロ・アントヌッティが見事すぎる。傷つき孤独な謎の力を持つ男。
ほとんど音楽を使わないだけに効果的な一曲と、アルカイネのカメラが絶品。
エリセは今70歳ちょっと。あと何作品観られるのかな?次を気長に待とう。
今回のトラウマはエストレリャのボーイフレンドのカリオコ。
電話ですごんだりするんだけど、落書きの似顔絵はめちゃかわゆいぞ。