トラウマティック銀幕 暗殺の森
ベルトルッチ監督ものは‘ラストエンペラー’しか観てなかった。
うん十年も前から気になっていたこれを蔦屋書店で見つけたよ。
<暗殺の森>
ホテルの一室で男がジリジリと電話を待つ。「首尾は?彼女は出発したのか?」
電話の声は最悪の事態を告げる。「困ったことになりました。彼女も一緒に車に」
国家公務員という将来を嘱望された職を捨て、結婚も控えるマルチェロ・クレリチは、
友人で盲目の詩人イタロ・モンタナの口利きで秘密警察に。スパイ志望だったからだ。
特務情報員マンガニェロからさっそく指令が来る。「責任者ラウルに会って下さい」
新婚旅行でパリに向かう途中にある国境の街のホテルの支配人がラウルらしい。
旅立つ前にやることがある。まず、母の運転手の始末をマンガニェロに頼む。
父は精神病院に入院。運転手アルベリは母にモルヒネを与えて愛人におさまっている。
次に教会での懺悔。「十三歳のときにひとを殺しました」屋敷にいた運転手を殺した。
モデル銃を見せると言うから部屋に行ったら凌辱され、怒って撃った銃は本物だった。
国境へ向かう列車内で、新妻ジュリアもマルチェロに告白する。「わたし処女じゃないの」
伯父と六年の関係。貴族と結婚した中級階級のジュリア。頭のなかはベッドと台所だけ。
マルチェロは動じない。求めたのは妻の愛ではなく、結婚という普通の形だったからだ。
国境の街のホテルでラウルから指令が出る。「パリにいるクアドリ教授を抹殺せよ」
マルチェロはかつて大学で哲学の教えを請おうとして、ファシストだからと断られた。
その後、思想的に身の危険を感じたクアドリはパリへと逃亡。教え子たちが身辺を警護。
マルチェロの意図をわかりながら、クアドリは訪問を受ける。手なずけようという魂胆か。
教え子たちはみんなクアドリ教授夫人のアンナに夢中だった。そして、マルチェロも…。
支配階級で拷問経験があり、精神を病んだ父、愛人にモルヒネ漬けにされた母、
幼い時に強姦された相手を殺した記憶もあって、ごく平凡な生活を望むマルチェロ。
でも、反ファシストを見つけるという任務や、スパイへの憧れで秘密警察に加わる。
で、いざという時には何もできない。殺しは他人まかせ、愛したはずの女性は見殺し、
仲間から軽蔑され、保身のために友人を売り…、最低最悪の男をトラティニャンが好演。
妖しい両刀使いのアンナを当時十九歳(!)のドミニク・サンダが魅惑的に好艶。
好きもので、それ以外どうしようもない男女を描くのがベルトルッチの得意分野?
‘ラストエンペラー’とか、観てないけどたぶん‘ラスト・タンゴ・イン・パリ’も。
今回のトラウマはアンナが教える少女ばかりのバレエ教室にいるたったひとり男の子。
天井からぶら下がったゴムを腰に巻いて宙返りの練習ばかりやっている。体操教室?