トラウマティック銀幕 サクリファイス
みなさま、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
<サクリファイス>
浜辺に親子。父親が穴を掘り枯れ木を植え、幼い息子が周りに石を並べて支える。
「僧侶が枯れかけた木を植え、毎日決まった時刻に水をやると3年後に花が咲いた」
そこへ、郵便配達夫のオットーが祝電を届ける。その父親、アレクサンデルの誕生日だ。
元教師のオットーは無神論者のアレクサンデルに議論をぶつける。
「みんなが待っている、本当の人生を。信じることによって実現するのです」
アレクサンデルは散歩を続ける。息子は最近、喉の手術をしたばかりで声が出ない。
車で通りかかったのは主治医のヴィクトワールとアレクサンデルの妻アデレード。
誕生日の宴の準備が整ったと妻。医師は相談事があると告げてふたりは先に戻る。
散歩を続ける父と息子。アレクサンデルは子供のことを忘れて思索にのめり込む。
「文明は罪悪の上に成り立つ。我々は間違った。もう手遅れだ」
後ろから脅かそうと飛びついてきた息子を驚いて突き飛ばしてしまい、
息子は倒れて鼻血を出す。アレクサンデルはショックで倒れてしまう。
夜の宴。夫妻とその娘のマルタ、主治医。子供は二階の寝室で眠る。
ヴィクトワールは問う。「きみは人生が失敗だったと思ったことは?」
アレクサンデルは役者をやめたのは失敗ではなかったと言うが、妻は異を唱える。
「わたしは俳優のあなたを愛したのよ」夫婦仲は長らく冷えきっている。
ヴィクトワールから外国行きの決心を聞かされて、激しく動揺するアデレード。
女中はふたり。ジュリアに、アイスランド生まれのマリアは変わりものでその夜は早退。
16世紀の古地図をプレゼントに持ってきたオットーも変わった趣味を持つ。
説明できない事件の蒐集。戦死した息子が十数年後に母の写真に写る話をして気絶。
破綻した夫婦、母の恋人に恋をする娘、人間関係に疲れた医師、奇妙な郵便配達夫。
彼らすべてに、全世界の全人類に、忌わしくも恐ろしい出来事が襲いかかる。
神を頼らず、おのれひとりであれこれ問題に苦悩する無神論者を自負するものの、
真の絶望や恐怖を味わうと、手のひらを返したように神に祈り、魔女を頼る。
世界の破滅は人間の作った兵器によるもので、神も魔女も知ったことじゃないのに。
それでも救ってくださる。たったひとりが犠牲を払うことだけで…という寓話。
この前に観たドライヤーの‘奇跡’とも通じるところがあるな。
信仰の対象に解釈とか権威とか欺瞞とか怪しいものをいっぱいつけておいて、
はたまた自分たちで勝手に作りあげた神の姿を嫌って無神論者になっちゃったり。
信仰って、例えば父親の言葉を信じて幼子が枯れた木に水をやり続けることでは?
今回の主人公がめずらしく饒舌だったのは、タルコフスキーが死期が近いと感じ、
‘息子’に出来るだけ多くのことを語り残しておきたいと思ったからだろうか(涙)。
今回のトラウマはやっぱり水。雪まじりのぬかるみにくるぶしまで足がズブリ…。
自転車でわざわざ水たまりのなかへとひっ転ぶ。グショグショで気色わるそう〜。